冬も日没になると、床下から冷気がズシンズシンと上がってくるのを感じます。
そしてその一番大きな原因が、床の断熱が効いていないことなのです。
家の作りようは夏を持って旨とすべし
これは兼好法師が「徒然草」の中で言っていることばで、高温多湿の我が国の夏を乗り切るためには、住居は冬ではなく夏に過ごしやすくなるように作りなさいということなのでしょう。
寒い家は健康に害を及ぼす
しかし、家を夏向きに作るということは、冬はその寒さを我慢するということなのです。そしてそのような寒い住環境が健康に及ぼす悪影響が明らかになっています。
2018年、WHO(世界保健機関)が健康の観点から家の中全体の室温は18℃以上にすることを強く勧告しています。国土交通省が国内の平均年齢57歳の住居2190戸を冬季に調査(調査年は不明)ところ、各部屋の平均気室温は
- 居間:16.8℃
- 寝室:12.8℃
- 脱衣所:13.0℃
という結果が出ています。
我が家もご多分に漏れず冬は寒い家なのです。では夏は涼しいかと言えば決してそんなことはなく、兼好法師の言葉をまるでお題目を唱えるように唱えるのが業界ではほぼ常識であったようです。
奇しくも「魔法瓶のように家全体を断熱材で包むのが一番効率がいい」と言われだしていたのも新築中の頃でした。
しかし未だに一戸建ての住宅で「エアコン1台で家の中全体が適温」というのはまだまだ少ない状況です。
DIYで床の断熱に挑戦
北海道に住んでいたころ、ちょうど冬場に床の修理で断熱材の有り、無しの両方を経験したことがあり、その違いに驚いたことがあります。
それでDIYでの床断熱工事に挑戦したのですが、その際に仕入れた豆知識を一つ。
床の断熱と一言でいっても2通りの方法があります。それは「床断熱」と「基礎断熱」です。
床下断熱
我が家の床下はいわゆる床下換気口を設け、カビが生えないように空気の流れを作って湿気が残らないような対策をとっている昔からある一般的な床下です。
つまり床から上は室内で、床下部分は室外なのです。その床下部分を換気するための「換気口」は外から見えます。
この室内と室外の境目、つまり床板の直下に断熱材を張り熱の移動を抑制する方法を床下断熱といい、今回はこの作業についてDIYしましたのでご紹介します。
基礎断熱
床断熱には他に基礎断熱があり、床下部分を丸ごとコンクリートで囲ってしまい、丸ごと断熱する方法です。つまり床下部分も床上部分も丸ごと室内とみなすのです。
床断熱の前にやることが…それは気流止め
根太方式の場合は壁との取り付け部で隙間ができる
我が家は木造軸組み工法で造られており、床部分は等間隔で並べた根太の上に床板を張る根太方式です。
しかしこの根太方式はすでに旧式のもので、最近は根太を貼らず床板を直接張る工法が主流になりつつあるようです。
この根太方式では根太の上に床板が敷かれるため、高さが高くなった分隙間ができます。
壁との取り合い部でこの隙間が壁内と通じてしまい、床下の冷たい空気が壁内に流れてしまうのです。
このままでは床下に断熱材を張ったところで、床下の冷たい空気がこの隙間を通じて壁内に入り込み結露を起こすことがあります。
そのためこの隙間を塞いで空気の流れを止める必要があります。それが「気流止め」と言われるものです。
かつてはこの気流止めがされていない(業者が知らなかった)ため、壁内に詰めたグラスウールなどの断熱材に結露が生じ、カビが生えたり木材が腐食したりなど大きな被害が出たことがあるようです。
この気流止めとしては板を打ち付けて空気の流れを止める方法もあるようですが、柱の部分などは作業が面倒になることもあり、現在は簡単に施工できる部材が市販されています。たとえばグラスロン間仕切りエースもそうです。
下図はこの間仕切りエースの実物写真です。
この間仕切りエースはポリエチレンフィルムに包まれていますが、片側だけが孔があいています。
ピンク側の面が「孔あきポリエチレンフィルム」、反対側が「孔なしポリエチレンフィルム」です。
この孔が空いている側が内側になるように二つ折りにして「小屋裏」と「床下」の両方に施し、その間の隙間の気流を止めるということです。
この間仕切りエースを使った気流止めの概略図を下に示します。
下図は床下から壁体内への隙間を埋めているところです。見てわかりやすい場所の画像を掲載しました。
実際には障害物があってこのように収まらないところもあるので、そこは適宜切り込みを入れるなど工夫します。
前置きが長くなりました。これから断熱材を入れる作業になります。
断熱材を入れていく
気流止めが完了したら根太間に断熱材を入れていきます。ただし畳部屋の場合は床下の構造が異なるので、断熱材入りの畳に交換することにしてこの工事は省略することにしました。
断熱材の選択と施工
断熱材というとグラスウールが一般的ですが、長さが86センチ、幅27センチ程度の市販の発泡ポリスチレン樹脂製を一枚一枚根太と根太の間に挟んでいく方法を取りました。
● 通常は上から押し込むので簡単
この製品は新築時に下図のように上から押し込んで設置するものです。
断熱材には上面(床板に接する面)側にスリットがあり、横方向に若干広がっていて断面は台形のような形です。
この断熱材をクサビを打ち込むように上から押し込むと、上面部が外側に反発して突っ張ることにより自ら根太に隙間なくしっかりと固定されることになります。
● 床板を剥がさず下から取り付けるのはちょっと難しい
ところが今回のリフォームのように断熱材を下から取り付ける場合は、最初にこのスリットで広がった部分を根太間に押し込む必要があります。
そのためにはスリットで広がった部分を両サイドから押して根太間の寸法以下まで縮めるのですが、これがなかなか困難で相当の力を要します。
また長さもあるので一様に押し込んでいくのはなかなか難しく、無理をして断熱材が欠けてしまうこともありました。
しかも台所や浴室付近は配管や部材が邪魔をするのでそのままの長さでは入らず、断熱材を半分にカットして右、左と分けて押し込まざるを得ない箇所も少なくありませんでした。
断熱材をピンで留め、根太との接触部は気密テープで覆う
断熱材はかなり大きな力で突っ張っていますのでずり落ちることは無いと思いますが、形が弓なりにエビぞってしまい、床板との間に空間ができることがあります。
床板との間に空間ができるのを防ぐため断熱材の下側から何か所かピンで押さえつけ、また念のため根太との接触部は気密テープで覆いました。
断熱材押さえピンを使うときは木ねじの長さに注意が必要だ
木ねじの先が床上に突き出たらケガをしてしまうわ。
【自分でスタイロフォームをカットする方法も】
ネットを検索すると自分でスタイロフォームをカットして施工している方がいらっしゃいました。スタイロフォームはホームセンターで販売されています。
これならスリットによる反発力は期待できませんが、きちんとサイズを計測してカットしたものであれば無理なく収まると思います。もちろん断熱材押さえピンを併せて使うのも有効です。また根太との間は気密テープで覆うことで完璧です。
パイプ貫通箇所付近の隙間は発泡ウレタンで埋める
配管、配線箇所は断熱材に切り込みを入れて埋めるのですが、どうしてもこれらと断熱材の間に結構な隙間が生じてしまいます。
隙間を気密テープで覆ってもいいのですが、形状が複雑なため、ここでは発泡ウレタンなるものを使用してその隙間を埋めることにしました。
発泡ウレタンは缶を逆さにして上方に向けて射出するのですが、逆さにすると図のように缶の底が上の床板に当たるため、缶自体を逆さに維持するのは難しく、工夫が必要です。
意外な落とし穴…コンセントの気密対策
床下に断熱材を留める前に壁体内の気流を止める「気流止め」を行いました。
しかし1階と2階の間には体が入らないので、どうしても片側(1階床下側と2階の天井側)にしか気流止めはできませんでした。
片側が塞いであれば空気の流れはほぼ抑えられるのですが、ここに落とし穴がありました。
壁内の空気は上に昇ろうとしますが、2階部分では天井部分で気流止めされているものの、隙あらば外に出ようとします。コンセントはまさにその「隙」になってしまいます。
実際コンセントのカバーを外して顔を近づけてみると、天井部分で行き場を失った空気が噴出してくるのがわかります。カバーがあるので漏れはわずかですが、コンセントの数は1個や2個ではありませんから無視することはできませんね。
コンセントに気密カバーをつける
コンセント気密のための製品があります。既存のコンセントを開けて接続部分を含め覆ってしまうのです。
この方法は結線を外すので電気工事士の資格が必要となります。
ただしカバーに切り込みを入れて結線をスライドさせるように入れ込む方法なら結線を外さなくても済むので資格は不要です。
浴室、洗面脱衣所の床下に撹拌機を設置
最近、浴室に接している脱衣所の床が若干沈み込むのに気が付き、断熱材を当てたところが結露したのかと思い確認しました。
結論として、バリアフリーの床なので浴室から若干脱衣所に漏れ出る水があることが原因と思われ、床下に結露はありませんでした。
ただし、この付近の床下は狭く区切られていて配管も多く、空気が滞留しがちであると思われたので、床下撹拌機なるものを設置して空気の流れを促してみました。
床下に置いておくだけなのですが、電線の結線は必要です。コンセントに差し込むだけなら資格はいりませんが、壁のスイッチに接続するなら必要です。
ケーブルの先端には差込型コネクタが付いており、使わなくてもいいのですが、結線は簡単です(⇨ 別タブで使い方を開く)。
運転音は静かなので気になりません。(2024.9.17)
参考情報
● 室温が10℃低下した時の血圧の上昇量 高齢になるほど大きく上がり、70代以上は血圧10異常上昇
(羽鳥慎一モーニングショーより)
● 子供は低温な環境にさらされ続けると深部体温が低下
→ 深部体温が0.1~0.2℃下がっただけで免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる
● 18℃以下の生活を続けていると要介護状態が早く訪れる
● 日本の住宅は現行の断熱基準を満たす高断熱住宅が約1割のみ
高断熱13%、中断熱22%、低断熱36%、無断熱29%
(国土交通省 全国約5000万戸対象(2019年公表))
雑感
まだ若いころ、家族を持ってから北海道に5年ほど住んでいたことがあります。住宅は平屋の2軒長屋で俗に文化住宅とか言われているものでした。
家の中の勝手口付近に石炭倉庫がありました。倉庫と言っても半間の押し入れのような作りで石炭を保管しておくところです。ただ、お風呂はすでに灯油式でしたので、石炭倉庫はただの倉庫になっていました。
家の中央がフローリングで両サイドに畳の部屋がありました。冬場はこのフローリングに大型の灯油ストーブを置いて暖房していました。ストーブはダクトで屋根の煙突につながっていました。離れたところにある灯油タンクからパイプでストーブに給油していました。ゴーゴーと音を立ててそれは暖かかったです。
しかし建物はかなり古く、後付けのアルミサッシはありましたが、熱はどんどん逃げて、屋根上の雪はその熱で溶けては凍り、溶けては凍りの繰り返しで、岩のように分厚い固まりになってはドスンと激しい音を立てて地面に落ちるのでした。隣の住宅は屋根が壊れました。
前置きが長くなりましたが、ある時このフローリングが抜け落ちてしまい業者に修理を依頼したのです。この業者、何を考えたのか古い断熱材は捨てたものの、新たに断熱材を入れませんでした。
その年の冬、ストーブはかなりの熱を放射するので顔はとても暖かいのですが、床はまるで氷。氷の上にじかに座っているようなものです。地面の冷気がストレートにフローリングを突き抜けて上がってくるのです。
ストーブの発する熱でも床は暖まりません。ここに布団を敷いても文字通り氷の上に寝ているようなもの。粗末な断熱材でも有ると無しとでは大きな違いがあるものです。
床断熱は新築時に行えば難しいものではないのですが、後でリフォームとして行う場合に、反対側の床下から断熱材を入れるのでやはり困難が伴います。ましてやDIYで行うには可能かどうか見極める必要があります。無理をして途中で挫折するくらいなら初めから業者に頼むべきでしょう。
記事本文と重なりますが、まず作業を行うのに十分な床の高さがあるかどうか確認します。我が家は80㎝以上の高さがありましたが、何とか体の向きを変えたりはできるものの、何度も足がつることがありました。
またベタ基礎なので20年経っていても割ときれいだったのですが、これが土とクモの巣やネズミの死骸などでいっぱいだったら、諦めていたかもしれません。
なんとか作業が終わってもやはり完ぺきとはいいがたく、特に台所などの水回り付近は配管が多いため、それだけでも動きが制限されてしまいます。本当に新築時だったら簡単なのにと思いました。素人でもできるでしょう。
ただ家を建てるときというのは一般的に現役でしょうから、DIYをするような時間は取れないことと思います。新築の際は断熱についてはしっかりと会社側と打ち合わせをして、後悔のない家づくりをしてください。
(おわり)
世界中で貧困のなか必死に生きている子供たちがたくさんおり、約5人に1人は1日1.9ドル未満で生活しています。
(これはアフィリエイト広告ではありません。)
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